闇を照らす一筋の光(小浜紋付祭り体験記)

星空が広がる山合いの夜の闇を切り裂くように、提灯が放つ優しい光とともに太鼓台が移動していく。町に近づくと、まるで湧いてくるかのように子どもたちが駆けつけ、その数が増えていく。お囃子の音に呼び覚まされるがごとく町の老夫婦が窓を開け笑顔でこちらを覗く姿が見えてくる。一番のクライマックスである交差点に到着し、4つの太鼓台が勢ぞろいした時、その盛り上がりは最高潮に達する。
今も記憶に残るその音、色、空気。私はこの町の日常を知らないけれど、特別な瞬間に居合わせているのは感じ取ることができた。

祭りは闇を照らす一筋の光。そう、希望なのだ。

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小浜紋付祭りとは
毎年体育の日を挟んだ10月の3連休に行われ、旧岩代町(現在の福島県二本松市)の小浜地区にある塩松神社秋季例大祭と位置付けられ、230年頃前から始まったと言われるお祭り。紋付袴で練り歩く行事があることから、この名称となっているようだ。それだけでなく、計4つの字(あざ)による太鼓台の運行、提灯、そして仮装と、祭りの面白さが詰め込まれている。
伝統の祭囃子が響く小浜紋付祭 イベント・祭り 見どころ紹介 岩代観光協会

しかし当地区も過疎化の影響を免れることができず、若連(祭りの担い手)不足に悩んでいるということもあり、今回その経緯の中で声掛けをいただき、参加させていただいた。

お祭りに実際に身を浸す
前日まで鹿沼の祭りに二日間参加していた疲れからか、朝6時の電車に飛び乗ったはいいが目的の二本松駅を寝過ごして通過。ようやく到着した二本松駅の観光案内所で、小浜の紋付祭りのチラシはないかと尋ねるも「置いていない」とのことで、大丈夫かと思いながらおそるおそる小浜行きのバスを捕まえる。
バス停を降りると、そこでは立派な紋付袴を来て一件一件を家を回る儀礼が行われていた。城下町だった頃の名残だろうか。立派な袴で、数十万もすると聞く。

近くの酒屋さんで御神酒を購入し、目当てである新町若連に合流した後、お昼を食べる。いきなりのビールにスパゲッティナポリタン。美味しい。緊張していたが、自己紹介を終えた後、若連の方々はとても気さくに積極的に絡んでくれた。ここの若連は数え年で18歳から39歳まで。歳が近い人が多かったことで親近感も湧き、とにかく彼らの会話が楽しいこともあり、一気に打ち解けてしまった。

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集会所に移動して衣装を着替えた後は、午後の太鼓台運行が始まる。
午前中は厳かなお祭りの雰囲気だったが、「午後からは楽しくいきましょう!」と声をかけられ、口紅を使って顔に落書きを始める。これも数十年続く伝統らしい。
「神様はあんまり自分の容姿に自信がないため、自分たちが敢えて変な顔をすることで安心してもらうためにこうしているんだ」と、若連の方が話してくれた。どこか優しさを感じるいい話だ。

太鼓台の上で大きな旗を振る若連とともに、「わっしょい、わっしょい!」の掛け声の応酬をしながら進む。はじめは縄を引くパートを担当していたが、途中から太鼓台を動かすパートも担わせてもらった。木製の車輪が付いた太鼓台を動かす際の負担は大きく、息を合わせて一気に動かさなくてはならない。(低重心での横移動はソーラン節や和太鼓で慣れているのでテンションが上がる)


動画は受け入れて頂いた新町の湊純人さんのブログより拝借
2016年10月12日のブログ|石一段目のブログ


10月中旬にも関わらず、ある町では簡易プールのような樽に入って水浴びをしているし、とにかく、酒を飲む飲む。見物している町の方から焼き鳥をいただいたり。楽しい。カオス!

太鼓台の運行を終えて神社に着いた頃には、酒に酔っ払って立ち寝していた。まぶたが半開きなまま肩を抱えてもらいながら神社まで階段を登り、神事を執り行う(記憶には残念ながらほとんど無い)。神社を降りてきた頃、ようやく目が開いてきた。


夜は一転、幻想的な雰囲気に。冒頭の通り星空と提灯という幻想的な風景が広がり、太鼓のお囃子が場を盛り立てる。

どこからか小学生がやってきて、一緒に縄を引くことになった。引っ越してきたばかりでまだあまり友達がいないという。話を続けていると、途中で「友達になって」と言われ、「まなぶ〜」と呼ばれ始めた。こうやって子供とじっくり関わったり「友達」になるなんて久しぶりだ。

中心地にの交差点に入ると4町合同のお囃子が行われる。そして若連の人たちが前に出て、各代表が「口上」を述べる。こうして祭りが受け継がれていく...

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ハロウィンの先駆け?と祭りへの愛情

次の日は見学。仮装をしながら太鼓台の運行。
仮装も伝統なんだという。たかが仮装。されど仮装。クオリティが高い。気合いの入り方が違う。「ステージ」という名のトラックの荷台上でのパフォーマンスもあり、町の人の爆笑を誘う。

この人たちは、いい人たち過ぎる。「祭りを愛している」と語るその言葉が本物なのだと、その行動を通じて感じる。ここでいう"祭りが好き"というのは、"この町が好き"と同義で、この町を人たちを喜ばせたいと本気で思っているのが伝わってくる。

人があって祭りがある。祭りがあって、町がある。

お祭りに対する思いを綴った、湊和也さんのブログ
明日より三日間「小浜の紋付祭り」が開催です!! | 湊和也のMASON'S HIGH!!

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お祭りで感じた「異文化
ある若連の方はOBに対して、「この町を出ていってしまって申し訳ない」と謝っていた。(隣町に住んでいるだけなのに...)
また、ある方はふとした会話の中で、「いわきに単身赴任している」という表現をしていた。(同じ県内で単身赴任?と一瞬言葉を疑った..)

私の中での常識とまた違う文脈で生きている人たちがいる。そして都会の当たり前が通用しない世界は、こんなにも身近にあることが不思議でならなかった。そこにはまた別の生き方があるし、こういう人たちにお祭りは支えられている。

異文化。だからこそ、通じ合えると嬉しい。楽しい。


祭りは続く。