これも祭りのうちだから(鹿沼秋まつり体験記)

「何してるんだ。お前はこの町の恥だ!」
祭りで一番の見せ場といわれる"ぶっつけ"の最中、ある粗相を犯してしまった自分は、地元の祭りの担い手の方に腕を掴まれ引っ張られ、鬼の剣幕で囃し立てられた。

祭りには侵してはならない禁忌事項がある。理解していたつもりでいたけれども要領を得ず、一線を踏み越えそうになった瞬間に起きたこと。はじめは何が起きたのか全然分かっていなかったが、冷静に振り返った時、自分の非を反省をして謝った。

「これも祭りだから。敢えて言ってるんだ。終わったこと。気にすんな。」

こんな風に怒鳴られたのはおそらく新入社員以来のことで、しばらくショック状態が続いた。しかし、初めて参加したソトモノにも真正面から向き合ってくれるのは優しさ。こうして「守る人」がいるから、祭りが今も続いているのだ。

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鹿沼秋まつりとは
栃木県鹿沼市で毎年102週目の土日に行われる、400年以上前に「雨乞い」を目的に始まったお祭りで、今宮神社の例祭とも位置づけられる。今年は24の町会がそれぞれの屋台と共に参加した。

 
 

http://www.buttsuke.com/index.html

その荘厳な屋台行事は、国指定の重要民族無形文化財にも指定されており、現在ユネスコ無形文化遺産に申請し、採択がほぼ決定的となっている。屋台については、京都の祇園を起源とするも、日光の文化の影響も色濃く受けているという。

私が参加させていただいた町会の屋台の彫り物は細部まで拘っており細部まで美しかった。また、お囃子も粋なリズムで「格好良い」と惚れ惚れしてしまうものであった。
準備や何気ないコミュニケーションから担い手の方々の誇りと愛情が伝わってくる。

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主に担わせてもらったのは2トン以上ある屋台を後ろから押すこと。前の方に方向を指示する方がおり、その合図に合わせて、尾尻を振るように少しずつ向きを変えていく。全てが人力で行われるため、かなり負担は重い。

1日目は人数が少なかったため自分も屋台を押すことができたが、2日目は人数が増え、それぞれが持ち場をつくり始め、良い場所は取り合いになる。役割を一旦逃してしまうと、なかなか中に入ることは難しく、もどかしい思いをすることもしばしばだった。

お祭りの開始は早朝6時から。屋台を曳きながら町内巡りを行ったあと、午後に他の町会との連合屋台曳き回し、夕方にメインイベントである「ぶっつけ」行事を行い、また町内を巡って終わる。10時近くまで(ヘトヘトになるまで)祭りは続く。

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打ち上げを終えた後の宿泊場所は「会館」と呼ばれる場所で、寝袋を広げて地元の方々10数名と共に寝ることとなった。眠りにつくまでお酒を飲み交わしながら、深夜まで熱い語りが繰り広げられる。70歳を超えるような地域の重鎮の方から、地域の次代を担う18歳までが同じ空間にいて、世代を超えて真剣な表情で向き合っている。「祭り」というと、祭り当日のハレの日のことを想像するが、毎年誰かが準備に準備を重ねてつくりあげられるものなのだと、横でそのお話を聞きながら改めて認識する。

驚いたのは、会館の外に簡易風呂があったこと。地元の担い手の方々が手作りでつくったもの。秋の夜の寒さをしのぐため、一気に体を温められる風呂は本当にありがたかった。

深夜2時に寝落ちして、起床は早朝5時。
朝起きると、地元の方々との心の距離が少しだけ近づいた気がした。


冒頭の話に戻る。
今回の出来事は心に深く刻まれることとなった。あの人が怒鳴ってくれていなかったら、自分はもっと痛い目に遭っていたかもしれない。こうして祭りの精神は受け継がれ、伝統がつくられていくのだと体感することができた。感謝。


 祭りは続く。