心揺らめく生命のリズム(二本松提灯祭り観戦記)

ずっと鳴り響いていたお囃子の音が消え、最後の提灯の蝋燭の炎が消えたのは、午前一時を回っていた。三本締めの後、祭りの担い手である「若連」を引っ張ってきた会長を筆頭に、祭の功労者が次々と胴上げされる。夕暮れから彼らと共に歩きはじめて、すでに7時間以上が経過していた。ハレの舞台の若連たちのピンと張った緊張感がようやく解けた瞬間だった。

金木犀の香りを運ぶ秋風に吹かれながら、真夜中に青春の一風景を見た。

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概要

二本松提灯祭り(二本松神社例大祭)は、毎年10/4,5,6に行われる。350年以上の歴史を持つ日本三大提灯祭りの一つで、独特なお囃子が福島県重要無形民俗文化財に指定されている。私は最終日の夕方から観戦させてもらった。

二本松提灯祭り2016の日程と見どころ。歴史や駐車場は? | 季節お役立ち情報局


若連とは

若連とは18歳から35歳までの男子で構成されるお祭りの担い手となる集団。若連は一部の二本松の子供にとって今も憧れの対象。

「若連人生 〜いのち華やぐ〜」
テレビで二本松提灯祭りが特集された際の題字の如く、
若連たちはこのお祭りに人生を賭けている

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ダイドー祭りドットコム2016 | これまで応援した祭り | 2006年の二本松のちょうちん祭り


「祭りのヒーロー」を追って

実はこのお祭りを知ったのはまだ2ヶ月ほど前のこと。あるご縁で二本松に行った際、地元の方に二本松提灯祭について話を聞いたときに、異常とも言えるほどの熱量を感じた。これに興味をそそられ、詳しい話を聞くため、改めて現役若連の(Kさん(仮)に時間をいただき、このお祭りやそれに懸ける想いについて伺った。

正直、その話に度肝を抜かれた。年齢は自分よりも下であるが、それはもう惚れ惚れするようなリーダーシップの持ち主で、3時間以上の続いた熱い語りが終わる頃には、私はすっかりKさんの"ファン"になってしまった。

「小さい頃の夢は若連になることだった」というKさんは、一見すると現代風の好青年。しかし、若連の中で城下町独特の保守性や、脈々と受け継がれてきた組織の伝統と対峙しなければならないジレンマを抱え、それを乗り越えることで鍛え上げられた心の強さは半端でなかった。答えに窮するであろう質問に対しても小気味よく返すその姿に、ある種の哲学すら感じたものだ。

そんなKさんが「年に100日以上も準備に費やす」というお祭りが、楽しみでないはずはない。私はお祭り自体を楽しみながらも、厳しい表情で慌ただしく動くKさんを追っていた。スポーツ観戦と同じように、お祭りの場合もこうして「目当ての誰かを追う」ことができるとお祭り観戦の楽しさは倍増する。

f:id:anmojapan:20161010024724p:plain ※写真はKさんとは無関係です

祭りの特徴

このお祭は、いわゆる山車を引くというスタイルで(ここでは太鼓台という)、7つの字(あざ)がそれぞれの太鼓台を独特の囃子のリズムに乗せて街を練り歩く。

提灯にはランプではなく蝋燭が入っている。蝋燭の火は消してはならないため、祭の最中には、常に新しいものと交換する作業を延々と行わなくてはならない。
天然の炎が作り出す揺らぎは幻想的でとても美しく、強烈な「生」を感じた。

主役のお囃子は小気味の良いリズムで鳴り響く。また曳き回しと呼ばれる太鼓台が曲がって進行する際には、音色が大きくなりリズムも早まったりと、様々な変化を見せる。2トンほどある太鼓台を回転させるのも人力なので、男衆は目一杯の力を使って、「ガリガリガリ」と轟音を立てて太鼓台を回転させる。そして太鼓台の後ろでは地元の若者たちが「わっしょい!わっしょい!」と威勢のいい掛け声で囃し立てる。曳き回しの時の胸にグッとくる高揚感は、何とも言葉にし難いものがあった。 

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途切れることのないお囃子のリズムと、提灯が次々に入れ替わっていく光景は、体の隅々まで血液を流すポンプである心臓と、血液を構成する赤血球を想起させた。それぞれの太鼓台はまるでそれが一つの生き物であるかのように動き続け、二本松の夜を切り刻んでいった。

祭りは続く。